2022年4月16日土曜日

@ideal Production Beta  Case.001 理想が持つ眼~The ideal has eyes, and it observes itself from within.

 

『理想(ideal)』。 それは、人間のみならずどんな生物にも宿る。

理想はあなたと共に世界を見つめている。 ただし、それは現実に現れることはない。

 

『理想』それは自らが心のままに望むモノ。

そんな理想は、常に誰よりもあなたを見ている。 そう、あなたの中で。

 

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妄想よりも現実に近い理想 その存在がより強く願われる時、決して現れることはないモノが、現実にその姿を現す。

そして自分と皆が寝ている途中、それは大量の学生の生命を奪った。

 

 

---番組の途中ですが、ニュースをお伝えします。 本日未明、(なな)(もり)()(よる)越山(こしやま)にて、大量の学生の死体が発見されました。 この学生たちの死体は、傷が無い状態で見つかっており、連日報道される怪奇現象との関連があると思われ、警察は引き続き夜越山での追加捜査を進めています……。」

 

ワンセグテレビからニュースキャスターの声がけたたましく響く。まだ早朝だというのに、うるさいものだ。ニュース番組は連日、原因不明、死因不明、犯人の特徴すらわからない連続殺人事件の話題だけを壊れたように報道している。 

 

ニュース番組がずっと目をつけているこの事件は、巷では通称『幻影DEAD』と呼ばれる、SNS上では証拠がなければ動くことのない警察に対するヘイトとともに、「警察殺し」とも呼ばれている怪事件である。

 

今となっては死体となったこの大量の学生を誰が殺したのか、こんな酷いことを一体誰が考えたのか。 その真相は、もちろん誰にも分からない。 そして、誰も真相にたどり着くことはない。

 

きっと犯人はこう思ったに違いない。

---『理想』は完璧だ。 『妄想』よりも、確実な狂気を見せることが出来る、と。

 

i>  理想は、目を持っている。

その眼は、宿主の体内から、不確かな現実を見つめている。

 

ただし、人々が持つ「理想」は、必ずしも善意に染まるとは限らない。

---それもまた非情な現実である。


 

 

Case.001  理想が持つ眼

The ideal has eyes, and it observes itself from within.


 

「あぁ……眠い。 今日も学校か。」

うるさい小鳥の声で目を覚ました。 時刻はまだ午前の6時、殆どの人間は目を覚まさないでいる。

そんな俺が目を覚ましたのは山の中だ。 決して遭難しているわけではないし、家出をしているわけでもない。

…俺は神埼 透。 高校三年生、趣味はADVゲーと天体観測。学校1の天体強者だ。

 

山にいる理由、それは星が見たいだけだ。 ただそれだけのために、家に帰っていない。 もう3年近くも。

親はいつも口うるさく、家の中では眠れたものではない。 ならば家にいなければいいとサバイバル生活を覚悟して、山の中にテントを張って寝たほうがマシだという結論に至った。 それがこの高校サバイバル生活の始まりだ。

 

学校近くでありながら光一つ届かない山に駐めたキャンピングカーに搭載したワンセグテレビから流れるニュース番組でうるさいくらいに報道される『幻影DEAD』といい、子供のなりたいものランキングといい、この世には腐るほどの理想が溢れている。

 

飛行機のパイロットになりたい、ケーキ屋になりたいなどという堅実的な夢や、電車になりたい、人形になりたいなどの非現実的な夢。 それらは全て善意の塊である。 ただし、理想はそんなフワフワとしたモノばかりではない。

 

人を殺したいだの、いじめたいだの、そういうのもまた『理想』の類に入ってしまうのだ。 それが突如として現実となり、俺の住む七杜市で引き起こされたのが、SNS上で通称『幻影DEAD』と言われている怪異事件である。

 

『自らの理想を現実化する』という、子どもたちから見れば神様同然、大人たちから見れば『救世主』でもあり『悪魔』のような存在にもなり得るものが存在するのではないか… そんな馬鹿げた理論が現実を揺るがしている。

 

透「何が『幻影DEAD』だ、バカバカしい………」

 

俺は朝の光に消えゆく月を眺めながら登校の準備を始めた。

 

透「もし俺が理想を現実化できたら、どれだけ楽になるものだろうか。…まぁそんな神様モドキがいるはずもないだろうがな。」

俺は1人でそうつぶやいて、キャンピングカーから降りて下山した。

 

「なぁなぁ、見たか昨日のニュース!!」

「見たよ、また起きたんだろ、『幻影DEAD』!!」

「不気味だよな、本当に理想を現実化出来るやつなんているのか!?」

「いるわけねーだろ!」

 

周りで男子生徒が騒いでいる。 あーうっさいうっさい。

俺はそんなオカルトじみた話には興味ないんだ。 遠くからワザと聞こえるように言ってるだろ。

 

「キャー!!凪樹くーーん!!!」

「凪樹くん今日もかっこいい!!」

 

凪樹「ありがとうみんな、ちょっと座れないからどいてくれないかな」

 

彼は柊 凪樹(なず)。 クラス1の人気者だ。

女子にも見えるのだが、男子制服を着ている。…まぁ男子なんだろう、多分。

クラスナンバーワンのコミュ力の持ち主であり、大人気な人物だ。

皆に優しく、交友関係の広さにおいては彼がトップクラス。

 

凪樹「透先生もおはよ!」

 

透「ああ、おはよ」

 

 

彼はなぜか一度天体について語り合ったときから、俺のことを「先生」と呼んで慕ってくれている。 そのたびに女子勢の冷たい目線を浴びるのだが。

 

しかし、前に俺は彼から『本当の自分がわからない』という悩みを打ち明けられている。

………どういうことなんだろう。 未だにその意味がわからない。

 

 

凪樹「透先生はテレビとか見ないの?」

 

透「見ない。 毎度毎度どこのチャンネルにかけようがうるさいニュースが流れるだけだ」

 

凪樹「えー、今ジーマーでバイヤーなアニメやってるのに!?」

「そうだそうだー!」

 

透「俺はオカルトじみた話には興味ないんだ! …アニメは見るがな。ちょっとそれ教えてくれよ」

 

凪樹「おっ先生も興味出た!? じゃ話すね………」

 

「わっひそひそ話……!!」

「うらやましい……!!凪樹さまに……!!」

「いっそ殺したい………!!」

 

凪樹ファンが俺に殺意を向けてきている。

 

透「お前らな 聞こえてるぞ 全部。  殺したいとかマジでお前恐喝で訴えるぞ」

凪樹「まぁまぁ…………!!」

 

 

凪樹がファンを引き止めると、チャイムが鳴った。

 

 

淡々と授業をこなしてく俺は、凪樹が教えてくれたアニメが気になって、少し情報を拾いたくなっていた。

…そして学校が終わった。

 

???「きミ」

 

透「何だ……? に…人形?」

 

???「ずっト 凪樹のミた アニメ 気にナっテた でシょ?」

 

透「!! 何故それを………!?」

 

???「ぼク わかル 凪樹の こト ナぁンでモ シってルかラ」

 

透「あんたは……誰だ?」

 

俺が人形と会話をしていると、眼が紅く『<@>』と光っている凪樹が現れた。

 

凪樹「こらメウ! ダメだよ勝手に出ちゃ!!」

 

メウ「だっテ 学校 ツまンなイ モん」

 

凪樹「それでも出ちゃダメだ!先生に見つかったらとんでもないことになってたかもしれないんだよ!」

 

メウ「ソの先生 ッて 人 怖イの?」

 

凪樹「……それなりかな、でも先生に見つかって万が一メウが没収されたら、

一生僕のもとに戻ってこれなくなるんだよ!それだけはダメだ……だから学校ではあまり動き回らないで!」

 

メウ「ソれハ イやダ ボく も 凪樹の所かラ 離れタく ナい」

 

凪樹「そうでしょ?だから僕のそばから離れないで!」

 

メウ「うン そウすル」

 

凪樹「ごめんね透先生、メウが迷惑かけちゃって………」

 

透「あれ、凪樹の人形だったのか…… というより、その眼、どうしたんだよ?」

 

 

凪樹「眼? なんにもなってないけど?」

 

透「……? (@のマークが消えてる。 どうしたんだ………?)」

 

凪樹「ま…まぁそんなことより、あのアニメ!今日は時間ないから教えられないけど、また明日語ろうね!じゃねー!!」

 

凪樹は走って教室を出ていく。

 

透「(@のマーク………そしてメウという動く人形…………確かに凪樹には友達は多いが、その中でもメウは特に凪樹を理解している存在と見受けられる………)」

 

俺は凪樹に起きた出来事を推理し始める。

 

透「そもそも動く人形なんて………そんなオカルト……   !?

待てよ、『理想』……メウは凪樹の理想の友人ということなのか? それにメウを追いかけていた凪樹の眼に現れた『@』のマーク……… 理想を現実化する……… 幻影DEAD………」

 

俺は色々と考えながら学校を出ると、脳裏に声が響いた。

 

「たすけて………」

 

その声を聞いた俺は導かれるように走り出す。

 

透「何だこの声は……… 聞き覚えがあるような…………!」

 

俺はキャンピングカーを駐めている付近に走ると、そこに1人の女の子が倒れていたのだ…………

 

 

???「うぅっ………」

 

その女の子を視界に捉えると、突如として視界がゆらぎだした。

 

透「何だこれは………青と…赤… T or F だと……?」

 

俺がその眼の視界を動かすごとに、青の景色と赤の景色が移り変わった。

 

???「その眼は『理想』を見ているの…… 君は正直になるの? それとも………嘘をつくの?」

 

………決まっている。

俺の見たものは………………

 

 

透「………Tだ。 俺は正直になる」

 

???「だよね。 それでこそ透くん」

 

苦しんでいた少女は息を吹き返すかのように立ち上がり、俺を見つめた。

 

透「あんたは………誰なんだ?」

 

ホープ「わたしの名前はホープ。 透くんが生み出した『理想』だよ」

 

透「なん………だと……………!?」

 

そんなバカな。 俺に理想を現実化出来る力が宿ったというのか!?

……そんなオカルトじみた話を「あり得ない」と言っていた俺が!?

 

透「鏡……鏡はどこだ!」

ホープ「鏡? …鏡は………はい!」

 

ホープが掲げた鏡に映る自分を見て、俺は驚愕した。

凪樹と同じく、眼に『@』を浮かべた、自分の姿がそこにあったからだ。

 

透「………!!! こ これは………あのときの!!」

 

ホープ「どうしたの?」

 

透「そ そんなバカな……… 俺が…… 俺が理想を現実化出来る力を持っただと………!?」

 

ホープ「具合が悪いの? ねぇ透くん! 透くんってば!」

 

起きた出来事があまりにも不自然すぎて、俺は気を失った。

 


 

 

 

透「はっ!! こ ここは……俺のテント!?」

そして、気がついたときには俺はテントで横たわっていた。

 

ホープ「! よかったぁ。 透くん、いきなり気を失っちゃうんだもん。大丈夫?」

 

透「あ ああ、大丈夫だ……」

 

ホープ「ホントに大丈夫?」

 

透「ああ、大丈夫」

 

ホープ「よかったぁ! すっごく心配したんだからね!」

 

 

俺は未だにわからない。

自分が見ているこのホープという女の子、凪樹が所持していたメウという人形、

そして謎の事件『幻影DEAD』が未だに本当のものなのか

 

しかし自分がこの眼で見たんだ。

すべて真実なんだ。

それで現実を振り回しているんだ。

 

俺は『神様モドキ』になってしまったのかもしれない。

 

 

そして俺は見ているこの空も 街さえも

すべてが本物だと自覚した。

 

 

そしてこのホープとの出会いが、俺と仲間たちの人生の歯車を狂わせていく

カオスへの入り口だということを未だに俺も、凪樹も、知るはずがない。

 

ホープと一緒に星を眺めながら、俺はたった今思った。

「いっそこのままも悪くない」と

 

 

 

To Be Continued…




@<i>deal the Sixth Sense




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愛さえあれば

If only I had love for you








原案・執筆    七夜志希